私たちの物語 prologue#5~キョウより始めよ~
子供のころは「あれは何?」が口癖だった。
名は体を表す。
私の名前の意味を知ったとき、それは必然なのだと悟った。
父はちょっと自分の名前に不満を持っていた。それも仕方ないかと思いはするけど、私はその名前に誇りを持っている。
父の名前は、私の名前に意味をもたらしてくれる。私の夢を肯定してくれる。
父には、そのために名付けたのではないと言われたが、頭から否定するわけでも無く、そこにはぬくもりを感じた。
だから、私はこの名前に誇りを持っている。
「あ~、ちょっと懐が寂しいねぇ~。なんか、いい依頼でもあるかしら?」
夢のため、冒険者になったはいいが、冒険者の生活は楽じゃない。
飲食店であり、冒険者ギルドの窓口でもある溺れた海豚亭は、味はいい上に安いがタダではない。それに、私の個人的な活動は何かと金が要りようだ。そんなわけで、生活は充実してはいるが、苦しいのも事実。
「さ~て、でもまずは腹ごしらえかね。」
依頼と食料を求め、溺れた海豚亭に着くとそこの主であるバデロンと冒険者らしき人物が話しているのを目にした。
「見かけない顔だね~。新人かな?」
なんとなく聞き耳を立てていると、どうやら依頼についての話のようだ。
「ちょっとエールポートの方で調査をしてもらいたくてな。」
「実は、サスタシャ浸食洞付近で不審者の目撃情報があった。イエロージャケットが別件で先日に調査を行った際はクァールが住み着いてるだけであったが、この報告が来たということで調査をお願いしたい。イエロージャケットがするべき仕事ではあるが、今はそちらに兵を割けないんだ。」
「へ~、一度調査した魔物が住んでる洞窟に不審者ね~。イエロージャケットからの依頼ってことはそれなりに報酬も期待できそうじゃないか。」
あの子は受けるみたいね。これは一枚かませてもらおうかしらね。
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「いいか。研究というものは、冒険なんだ。謎、疑問、神秘、それらを見つけ、解き、真実を手に入れる。誰にでもできることだが、成すことが困難な行為だ。なぜなら、そこには途方もない努力が必要だからだ。だが、その先には得も言われぬ達成感が待っている。お前には、ぜひその喜びをつかんでほしい。......だから、父さんからの助言だ。」
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【キョウより始めよ】
「ちょっとこの席いいかい?」
父さん、私は「興」より始めるとするよ。
さて、この先にどんな神秘と苦難が待っているやら。
絶対に見つけ、解き、手に入れるわよ。
トゥーグロナ ワンワルゴウィンの名に懸けてね。
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